難治性疼痛

難治性疼痛(神経障害性疼痛)とは

痛みは生命の危険を知らせ、身の安全を守るための危険探知感覚として存在し、私たちの生命活動に欠かせない役割を持ちます。ところが、必要以上に長く続いたり、原因がはっきりしなかったりする痛みは、不必要であるばかりか、日常生活に支障をきたしてしまいます。

一般に3カ月以上継続する痛みを「慢性疼痛」と呼びます。慢性疼痛には、神経自体が圧迫や損傷を受けて起こる「神経障害性疼痛」という痛みがあります。

難治性疼痛(神経障害性疼痛)とは

難治性疼痛(神経障害性疼痛)の主な症状

  • 痛みの部位の感覚が鈍くなる(知覚鈍麻)
  • 少しの痛みでもとても強い痛みに感じる(痛覚過敏)
  • 痛みではない刺激(触れる、寒冷など)を痛みとして感じる(アロディニア)

また、以下のような症状が持続的、かつ発作的に出現する。

  • 電気が走るような痛み
  • 刺すような痛み
  • 焼けるような痛み
  • しびれ など
難治性疼痛(神経障害性疼痛)の主な症状

難治性疼痛(神経障害性疼痛)の病因

神経には、脳と脊髄からなる中枢神経と末梢神経がありますが、これらの神経に不具合を生じるあらゆる病気やけがが痛みの原因となり得ます。例えば、脳梗塞や脳出血で脳に障害を生じた後に、顔や手足を含む半身に痛みを生じることがあります。また、脊椎脊髄疾患により脊髄や末梢神経に障害が加わり、適切な治療後も痛みが残存することがあります。さらに、末梢神経に障害が加わるけがや糖尿病、帯状疱疹といった病気も痛みの原因となることがあります。このように、様々な原因により不具合を生じた神経は、勝手に興奮をして過剰な痛みの信号を脳へ伝えたり、本来は痛みと感じない程度の感覚を誤って痛みとして脳に認識させたりすることで、不快な痛みを生じます。

末梢神経レベルでの障害を「末梢性」神経障害性疼痛、脊髄や脳の中枢レベルの障害を「中枢性」神経障害性疼痛に区別されます。神経障害性疼痛の原因は非常に多岐にわたりますが、代表的なものを以下に示します。

末梢性

  • 三叉神経痛 / 舌咽神経痛
  • 帯状疱疹後神経痛
  • 有痛性糖尿病性神経障害
  • 複合性局所疼痛症候群
  • 腕神経叢引き抜き損傷後疼痛
  • 幻肢痛
  • 絞扼性末梢神経症(手根管症候群など)
  • 神経根障害
  • 特発性感覚性神経障害
  • 急性/慢性炎症性の脱髄性多発神経根障害
  • アルコール性神経障害
  • 医原性神経障害(乳房切除術後疼痛,開胸術後疼痛など)
  • 腫瘍による神経圧迫または浸潤による神経障害
  • 放射線照射後神経叢障害
  • 中毒性神経障害
  • 外傷後疼痛
  • 自己免疫性神経障害 慢性馬尾障害

中枢性

  • 脳卒中後疼痛
  • パーキンソン病関連疼痛
  • 多発性硬化症疼痛
  • 脊髄空洞症/延髄空洞症
  • 脊柱管狭窄による圧迫性脊髄症
  • 外傷による脊髄損傷後疼痛
  • 虚血後脊髄症
  • 放射線照射後脊髄症/放射線照射後脳症

参照:Dwrokin et al. Arch Neurol 2003

難治性疼痛(神経障害性疼痛)の診断方法

▼原稿の提供と、必要であればイラストの依頼をお願いします。

難治性疼痛(神経障害性疼痛)の治療法

神経障害性疼痛に対しては、切り傷や打撲、骨折、やけどなどによる痛み(侵害受容性疼痛)に効果がある一般的な痛み止め(非ステロイド性消炎鎮痛薬)は効きません。神経に直接作用する特別な薬を内服する必要があります。

薬物治療で痛みが治まればよいのですが、痛みが慢性化すると完全に抑えられない場合があります。その場合、神経ブロック、理学療法などのリハビリテーション、認知行動療法などの心理的な療法を合わせて治療を行っていきます。

これらの治療で十分な効果が得られない場合、脊髄刺激療法などの神経刺激療法が適応となります。

難治性疼痛の治療法

外科的治療

効果が期待される痛みは、慢性疼痛のうち、神経に原因があると考えられる痛み(神経障害性疼痛)になります。

脊髄刺激療法(SCS)

脊髄を刺激することによって痛みの緩和を図る治療として脊髄刺激療法(spinal cord stimulation: SCS)があります。この治療では、脊髄に電気刺激を与えることで、痛みを引き起こしている神経の異常な興奮を調整することで、脳に痛みの信号を伝わりにくくさせることで、鎮痛効果が発揮されると考えられています。

脊髄刺激療法(SCS)とは

磁気刺激療法(rTMS)

頭の外から脳を刺激して痛みを緩和する治療法として、反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)があります。rTMSでは、頭皮上に刺激コイルを置いて、パルス状の電流をコイルに流すことで、電磁誘導の法則で直下の脳を電気的に刺激します。頭皮上に刺激コイルを置くだけですので、手術や鎮静薬も必要ありません。以前は、開頭術で頭蓋内に電極を植え込んで、直接脳を刺激する植込み型の一次運動野刺激術が行われていましたが、この手術を参考にrTMSが開発されてきました。

rTMSは、薬剤抵抗性のうつ病に対しては、日本を含め各国で承認を受けておりますが、痛みに対しては日本では承認を受けておりません。まだ研究段階ではありますが、脳や脊髄、末梢神経が障害されたときに起きてくる神経障害性疼痛に効果があるとされています。

また、その他の難治性疼痛についても、効果がありそうだという報告があります。刺激する場所については、一次運動野(体の動きをつかさどる脳領域)の刺激が痛みに効果があるとされています。一次運動野を刺激することで、脳の中の痛みに関係する部分に働きかけたり、運動システムを活性化したりして、痛みの感じ方を変えると考えられています。

1回の刺激は10~20分程度で、1回だけでは効果が一時的であるため、最近は数日から数週間にわたって刺激を繰り返すことが多くなっています。rTMSの効果には個人差があり、痛みが緩和される方から効果のない方までおられます。手術療法より安全性は高く、報告されている副作用は、刺激中あるいは直後の一時的なもので、重大な副作用は報告されていません。頻度は非常に少ないですが、けいれんを起こす場合があるため、多くの臨床試験では、そのような危険性のある方にはしないようにしています。

磁気刺激療法(rTMS)

難治性疼痛(神経障害性疼痛)のよくある質問

▼参考サイトより引用。内容をご確認の上、原稿の提供をお願いします。